潮騒
金と愛、両方手に入れるなんて出来ないことくらい、わかってるんだ。


レンはあたしの方へと視線を移し、



「ルカこそ、まだ続けんの?」


「………」


「お前ならマクラしなくたって、クラブとかに移っても十分に稼げるだろ。」


確かにすべての客にマクラをやってるわけではない。


けど、でも、変化が怖かった。


目に見えない何かを失うような、そんな感覚にばかり支配されるから。



「あの男のこと、好きなんじゃねぇの?」


好きだよ、と言ってしまえれば、どれほど楽になれるのだろう。


けれども言葉にして認めてしまえばきっともう、あたしは今のままではいられないだろうから。


何も答えないあたしにレンは、



「お前こそ、一生そうやって自分の気持ちを誤魔化し続けてるつもりかよ。」


まるで自分のことのように悔しそうな顔だった。


あたしは唇を噛み締める。



「…けど、だって…」


言い掛けた言葉さえ遮ったレンは、



「言い訳なら聞く気ねぇから。」


そう言って席を立った。


目眩がするほどに、彼が放った台詞だけがぐるぐると回る。


フロアを彩るライトに照らされながら、ぽつんと取り残されたあたしはひとり、顔を俯かせた。


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