潮騒
懲りもせずにまたあたしは、マサキの腕の中で眠っていた。


そして揺すり起こされた時にはもう、時刻は陽も傾く頃を迎えていた。


乱雑にだけ整えられた、無機質な部屋。


チェストの上にはいつも通り、トカレフと煙草と携帯が置かれている。



「ほら、寝すぎだっつーの。」


あの時、通話ボタンを押したっきり、何も喋らなかったあたしを彼は、迎えに来て、そしてここに連れて来てくれた。


きっと縋りすぎているのだと思う。


けれど、それでも良いのだとマサキは言った。



「お前さぁ、いっつも俺のシャツ掴んだまま寝てて、子供みてぇなんだもん。」


無邪気に笑う、彼の横顔。


唇が触れて、その香りにくすぐられる。


まるで陽だまりの中にいるような錯覚さえ起こしてしまいそうで、そんな自分自身の醜さをまた痛感させられた。


あたしの腕から覗く、赤みを帯びた無数の真新しい擦過傷。


マサキは一瞬ひどく悲しそうな目をし、でもすぐに「飯でも行く?」と煙草を咥えた。


いつも何も聞かれない。


それが彼の優しさであるということはわかっていた。



「何だよ、どした?」


かぶりを振り、こてりとその体に頭を預ける。



「大丈夫だよ。」


大丈夫、大丈夫。


そうやって自分に言い聞かせることしか出来ない。



「それより食べに行くくらいなら、あたし何か作るよ。」

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