潮騒
街中にある、怪しい雑居ビル。


駐車場にはチェンさんの真っ赤なマスタングが止まっていた。



「ルカちゃんだぁ!」


事務所に入って早々に、抱き付かんばかりの彼の勢いは変わりない。


マサキは気にも留めず、机に投げられていた書類に目を通す。



「いっつも一緒なんだね。」


「…たまたまですよ。」


「ははっ、照れちゃってぇ!」


こういうふざけた態度も、慣れてみればどうってことはないのかもしれない。


軽くあしらっていると、チェンさんの携帯が鳴った。



「うん、うん、じゃあ今から行くね。」


電話を切った彼はマサキに向け、



「ってことだから、後のことはまちゃまちゃの方で片付けといてよ。」


手をひらひらとさせ、彼がきびすを返そうとした時だった。


マサキは睨むように目を細める。



「待てよ、チェン!」


「ん?」


「お前、どこ行くつもり?」


「何かその質問って、束縛したがりなカノジョみたーい。」


笑うチェンさんに、だけどもマサキはさらに眉を寄せ、



「まだあの女と会ってんのかよ。」

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