潮騒
“あの女”というのは、以前チェンさんの車に乗っていた人のことだろうか。


けれど、どうしてそんなことでマサキがここまでの顔をするのか。



「俺がスミレさんと会ってるからって、何?」


「………」


「てか、マサキはいつから俺のプライベートにまで口出すようになったわけ?」


イラついた様子のチェンさんなんて初めて見た。


マサキはその態度に腹が立ったのか、舌打ちを吐き捨てて書類を投げる。



「何でわかんねぇんだよ、あの女だけはやめとけっつったろうが!」


「そんなの大きなお世話だから。」


「けど、てめぇのために言ってやってんだろ!」


その胸ぐらを掴み上げたマサキにも、チェンさんが動じることはない。


あたしはただわけもわからず、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。


チェンさんはため息混じりに肩をすくめ、



「つーかさぁ、マサキにだけは言われたくないから。」


「あ?」


「情報のためならいくらだって女泣かせて、挙句、プライベートで抱いてんのはマクラ嬢って、笑っちゃうでしょ。」


彼がクッと喉を鳴らした瞬間、マサキは拳を振り上げた。


けれど、



「図星だから殴るだなんて、マサキも随分と子供染みてるんだね。」


チェンさんが吐き捨てた言葉に、彼の拳が止まった。


掴み上げられた胸ぐらにある手を振り払ったチェンさんは、



「余計な心配は迷惑なんだよ。」

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