潮騒
逆にマサキの胸ぐらを掴み上げた。


まるで殺意さえ混じっていそうなその瞳。



「スミレさんことこれ以上悪く言うなら、俺はマサキだろうと許すつもりはないから。」


「てめぇ、本気かよ。」


「マサキにわかってもらおうなんて考えてないよ。」


そう言ったチェンさんは、ゆっくりと手をほどいた。


マサキはひどく悔しそうな顔で唇を噛み締める。



「どうなっても知らねぇぞ!」


けれどチェンさんはそれにさえ耳を貸すことはなく、今度こそきびすを返し、ひとり事務所を後にした。


マサキは苛立ちの中で、ガッ、と壁を殴り付ける。


訪れた重苦しい沈黙の中、外から聞こえるのは、遠ざかっていくマスタングのエンジン音。


掛ける言葉が見つからない。


彼は息を吐き、顔を俯かせたままに、



「悪ぃ、ルカ。」


「良いよ、別に気にしてないし。」


チェンさんに言われたことは、悲しいけれど、紛れもない事実だから。


それより今は、この状況をどうしたものかと思ってしまう。


マサキは宙を仰いでソファーに崩れた。



「何やってんだろうな、俺は。」


自嘲気味に吐き出した彼は、



「アイツとこんなことで喧嘩してぇわけじゃねぇのにさ。」

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