潮騒
「別にそんなんじゃねぇんだけど。」


「じゃあ待ち伏せみたいなことなんてしないでよ!」


そう言ってきびすを返そうとした瞬間、



「待てっつーの!」


腕が掴まれ、びくりと肩が上がる。


けれど足にさえ力が入らないのに、ろくな抵抗なんて出来やしない。



「離してよ。」


「………」


「人が見てるし、営業妨害でもするつもり?」


が、彼は肩をすくめてから、



「乗れよ。」


自らの後ろにある車を差した。


まさか、冗談じゃない。



「良いから、今日は何もしねぇよ。」


「そんなこと信じろって?」


「でもお前、顔真っ青だし、どのみちそんなんじゃ行き倒れるぞ。」


結局、抵抗さえもままならないまま、腕を引かれたそのままに、高級車の助手席へと押し込められた。


相変わらず、何を考えているのかもわからない男だ。



「この前、悪かったな。」


「……え?」


「別にお前をどうこうしようなんて思ってねぇし、北浜のパスワードも手に入れたから、一応詫びついでに、と思ってね。」

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