潮騒
いつだったか、レンも同じことを言っていたけれど。


好きになったものは仕方がない、という気持ちは、わからないわけではない。


話を聞きながら、あたしはどんな顔をしていただろう、チェンさんはこちらを見てまたクスリと笑い、



「スミレさん、借金があるんだって。」


「え?」


「だからあの男に買われたんだ、って言ってたから。」


嫌だった、けれどどうすることも出来なかった。


そう言いながら悲しげな顔をするスミレさんを見たチェンさんの中に、芽生えた気持ち。



「スミレさんがね、俺の目を見て、オッドアイはタイでは“ダイヤモンドの瞳”って呼ばれてるのよ、なんて言うんだもん。」


「………」


「何かそれ聞いた時、俺ね、生まれて初めて救われたような気持ちになったんだ。」


スミレさんのことを話すチェンさんの瞳はいつも、ひどく優しさを帯びていた。


だから彼女をどれほど愛しているのかということが伝わってくる。


けれどやっぱりあたしは、応援してる、なんて安易には言えなかった。


スミレさん――ヤクザのイロ。



「マサキとは、あれから?」


「アイツは俺より大人だからね、別に何にも触れないって感じかな。」


「………」


「俺ね、マサキの心配は確かにわかるんだけどさ、でも人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてナントカ、って言うんだし?」


おどけたように笑うチェンさんはまた酒を流してから、



「愛だとかそういうのってくだらないって思ってたけどさ、悪いもんじゃないんだって初めて知ったんだよね、俺。」

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