潮騒
それは、自分を犠牲にすることを一番に考える彼らしい言葉なのかもしれない。


ただ少し、悲しくなってしまうけれど。


レンの肩に頭を預け、目を瞑ると、どうしようもなくやりきれない想いばかりが溢れてくる。



「ほらぁ、だから飲みすぎんなっつったのにー。」


ぐりぐりとされたおでこが痛い。


それでも手首の古傷の痛みよりはずっとマシだった。


彼は小さくため息を吐き出しながら、



「何か知らねぇけどさ、慰めてほしいんだったらあの男に頼れよ。」


「………」


「悪ぃけど俺、今はお前の相手してられる余裕ねぇし。」


余裕がない、と言ったレン。


マクラを辞めた彼が、このクール・ジョーカーでナンバーワンを固持することは、簡単なわけがないのだろう。


笑っていながらも、珍しくその目には焦りが見えた。



「売り上げ、ヤバイの?」


「まぁ、それでもファンタジーのナンバーワンさんよりは稼いでますけどね。」


虚勢を張る必要なんかないのに。


輝きをまとったレンは、この場所では何があろうとも、決して弱い部分なんて見せようとはしない。


あたしにはそれが、堪らなく痛々しく感じられた。



「俺、こんな街に負けてる場合じゃねぇもん。」

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