潮騒
ここ数日で、季節はすっかり春になってしまったらしい。


レンからの連絡はない。


そしてイベントが重なった連勤明けの休日に、うちにやってきたのはマサキだった。


我が家のベッドでぐっすりと寝息を立てている彼を見ていると、もうずっとこのままでも良いような気になってくる。


パスタを作り終えた時、マサキは見計らったように寝室から現れた。



「俺、もしかしてすげぇ寝てた?」


「良いよ、ちょうどご飯も出来たところだから。」


たまに訪れる、こんな平穏。


唯一、ひどく安らげる一時だと思う。



「最近忙しいの?」


「そうそう、チェンが楽な方の仕事ばっか選びやがるから。」


そう言った彼はため息混じりに煙草を咥える。


どうしようかとは思ったけれど、



「チェンさん、前にうちの店に来たよ。」


「……え?」


「何か謝られて、それでスミレさんのこと話してくれたの。」


そっか、とマサキは押し黙る。


吐き出された煙が静かに揺れて、宙を仰いだ彼は、



「石橋組がどれだけヤバイかは、アイツだってわかってるはずなのにな。」


「………」


「それでもあの女のことが好きだって言われちゃ、俺はもう何も口挟めねぇから。」

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