潮騒
それから部屋でぐだぐだと過ごしている間に、辺りはもうすっかり夜の気配に包まれていた。


観終わったDVDをケースに戻そうとしていた時、



「あ、これの返却期限って今日じゃん。」


「マジかよ。」


そう言いながらも、互いに煙草の残りも僅かだ。


ついでにコンビニでも行こうという話になり、一緒にうちを出た。


怖くなるほど静かな夜。


けれどあたし達はそんなことにも気付かずに、先ほど観たDVDの余韻に浸りながら、ああでもない、こうでもない、と感想を言い合っていた。


と、その時。



「おいおい、あれ検問じゃねぇの?」


舌打ちを混じらせたマサキの視線の先には、数台の警察車両。


面倒くせぇ、なんて言ったところで、一本道だ、進むしかないらしい。


警察官に窓をノックされ、



「すいません、ちょっと免許証を拝見させてくださいねー。」


そういえばこの前、付近で殺人事件があったと聞いた。


犯人はまだ捕まってないらしいから、きっとそれのための検問なのだろう。


マサキが差し出した免許証を軽く一瞥した警察官は、



「はい、結構です。
ご協力ありがとうございます。」


たったそれだけの、数秒間。


彼はやれやれと煙草を咥え、免許証と財布をあたしに投げた。



「それ仕舞っといて。」

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