潮騒
走る車内で、あの日の横顔からは想像もつかないほど、今日の彼は穏やかに話す。


第一、詫びなんてキャラでもないだろうに。


だから少しばかり戸惑った。



「今度は何を企んでるの?」


「だから、そういうんじゃねぇし、今日はあの危ねぇオモチャも持ってねぇから。」


「………」


「まぁ、暇潰しっつーか、プライベート?」


小さく笑った彼の顔に、何故だか胸が軋んでしまう。


あたしは顔を背け、代わりにバッグからあの日の茶封筒を取り出した。



「これ、返すよ。」


「いらねぇよ。」


「あたしだっていらないよ。」


「なら、お前にやったもんだし、必要ねぇなら捨てとけば。」


そんなこと、出来るはずもないじゃない。


だから顔を俯かせると、彼はそれをひょいとあたしから奪い、半分ほど開いた窓の外へと茶封筒を放り投げた。


信じられない。


けれど彼は茫然とするあたしをよそに、



「お前も俺もいらないんだし、これでチャラじゃね?」


煙草を咥え、スカした横顔。


あたしは何だか全てのことが馬鹿らしくなってきて、肩をすくめて見せてやった。



「ねぇ、マサキ。」

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