潮騒
まったく、あたしを小間使いになんてしないでほしい。


しかしどんな顔をして写真に写っているのか、笑ってでもやろうとそれに視線を落とした刹那、目に入った彼の名前。



「…氷室、正輝…」


瞬間に脳裏をよぎった過去の記憶。


そんな、まさか、こんなの偶然に決まってる。



「それ俺の本名だよ。」


マサキはこちらを一瞥し、煙を吐き出しながら笑う。



「この辺では珍しい名字だろ。」


「………」


「別に好きじゃねぇからあんま名乗りたくねぇけどな。」


けれども彼の言葉すらも耳を通り過ぎていく。


ただ、これは本名なのだ、という事実だけが、ぐるぐると回る。



「って、どうかしたか?」


あたしは弾かれたように顔を向け、



「いや、何でもないよ。」


急いでマサキの免許証を財布に仕舞い戻した。


そしてそれを押し付けてから、



「それよりあたし、用事思い出したから帰らなきゃ。」


「はぁ?」


「ホントにごめんね。
でもどうしても外せない用なの。」

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