潮騒
あれからどれくらいが経っただろう、再び携帯にメールが受信される。


動かない体を何とか引きずりながらもそれを手繰り寄せ、フォルダを開くと、




【時間作れない?】

【とにかくいつでも良いから!】

【お前、返事くらい返せよ!】




すべてはレンからのもの。


けれど、正直今は、返信する気力さえもない。


ここまで何度も送ってくるくらいだから、とても重要な何かなのだとは思うけれど。


でもあたしは、きっとまともに聞くことは不可能だから。


痛みを放ち続ける手首をさする。


振り払おうにも脳裏にこびり付いたままの記憶がまた蘇り、それに蝕まれてしまう。


けれど同時に、マサキにも、レンにも、このことだけは知られないようにしなくては、とも思った。


あたしだけしか知らないのであれば、隠しておけば良いだけのことだ。


きっと単なる偶然に決まってる。


いや、そうじゃなきゃ困るんだから、と言い聞かせて。


マサキの存在はもう、あたし自身から切り離せない。



「…助けてよ、ゆず兄ちゃんっ…」


発した声は震えていた。


まるで夜の闇に飲み込まれてしまいそうなほど、部屋は静けさの帳に包まれたまま。

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