潮騒
連れ込まれた場所は、あたしの部屋。


うちから近かったことが災いしたのだろう、それでも顔を俯かせることしか出来ない。


マサキは不機嫌そうに煙草の煙を吐き出した。



「お前さぁ、いきなり何?」


「………」


「つーか、文句あんならちゃんと言えよ。」


さすがにあれだけ何度も断っていれば、誰だってそう思うのかもしれないけれど。



「別にそういうのじゃなくて、ホントずっと調子悪かったし…」


「だったら俺に頼れって何回も言ったろ!」


マサキの優しさは、もう十分すぎるくらいに伝わっている。


それでも、あの事実だけは話せない。


脳裏にこびり付いて離れない、“氷室”という名。



「ふざけんじゃねぇ、少しは心配してたこっちの身にもなれってんだよ!」


刹那、抱き寄せられて驚いた。


伝わるぬくもりがただあたたかくて、そして同時にひどく悲しくさせられる。


その腕を振り払うことなんて出来なかった。



「…ごめんなさい。」


ごめんなさい、ごめんなさい。


繰り返すだけのあたしと、何も言おうとしないマサキ。


彼は長い沈黙の後で、吐き出すように絞り出した。



「なぁ、頼むから俺の傍にいてくれよ。」

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