潮騒
「うちのルカちゃんが随分世話になってるみてぇだから、俺も挨拶くらいはしとかなきゃだろ?」


そう口角を上げた彼は、今度はあたしへと視線を滑らせながら、



「ところでさぁ、ルカはコイツの正体知ってんの?」


正体というのは、どういう意味だろう。


侮蔑するような目で言うレン。



「…別に仕事のことだったら知ってるし…」


「じゃなくて、“過去”って言った方が良いかもなぁ。」


あたしの言葉を遮った彼の台詞に、瞬間、背筋が凍った。


まさかレンは、知ってしまったのだろうか。


あれほどあたしが隠そうとしていた事実に、気付いてしまったということか。


息を吐いた彼は、ぐっとマサキを見据えた。



「ちゃんと聞けよ、この男はなぁ!」


そう言い掛けたレンに、



「やめてよ、それ以上はダメ!」


渾身の力で制すると、彼はひどく驚いた目であたしを見た。


そして震えた声で、



「…お前、まさか知ってたんじゃ…」


それでもあたしは、嫌だ、嫌だ、と首を振った。


力なくもレンを揺するが、彼は悔しげな様子で唇を噛み締める。


マサキは困惑するような顔でこちらを見ていたが、構わずレンは、



「コイツがユズルくんを殺したヤツの息子だってわかってて、何でそれでも一緒にいるんだよ!」

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