潮騒
悔しさの中で泣いているみたいなレンは肩で息をしながら、再び沈黙が訪れた。


マサキは恐る恐る顔を上げ、こちらを見る。



「これってマジな話だよな?」


あたしは唇を噛み締めながらも、小さく頷いた。


マサキには何の罪もないとはいえ、対峙しているのは被害者の家族と加害者の家族。


15年も経って、皮肉な運命だと思う。



「ずっと話せなくてごめんね。」


それがあたしの言えた精一杯だった。



「わかったらさっさと出て行けよ!」


レンが苛立ち紛れにドンッ、と傍のテーブルを蹴り飛ばすと、そこに置いてあった写真は宙を舞い落ちた。


お兄ちゃんの笑顔の数々が、床に散乱する。


マサキはそれを一瞥すると、何か言いたげな様子を振り払うように部屋を出た。



「マサキ!」


思わず声を上げたあたしにレンは、



「追い掛けんじゃねぇ!」


制するように腕が取られた。


あたし達は、こんな形で終わってしまったのだろうか。


それでも、レンを振り切ってまで行くことは、裏切りに等しかったから。


あたしはまた泣き崩れた。


彼はやっぱり拳を握り締めたまま、



「あんなヤツのために泣いてんじゃねぇよ!」

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