潮騒
レンはあたしよりずっと、お兄ちゃんを殺した犯人を憎んでいる。


今も、昔も、その気持ちが揺らぐことは決してない。



「ルカ、ちゃんと聞くんだ!」


彼はあたしを真っ直ぐに見据え、



「お前が自分を責める理由なんてないし、こんなの現実じゃねぇ!」


「………」


「だから悪い夢でも見たと思って忘れるのが一番なんだ。」


悪い夢だった、って?


この部屋には、確かにマサキが存在していた痕跡が残されたままなのに。


それでも、レンの必死そうな瞳に映されると、あたしは何も言えなかった。



「第一、アイツと一緒にいるってことは、ユズルくんが殺されたことを肯定してるようなもんだろ?」


「………」


「だからこれで良かったんだ。」


そう言い切ったレンは、さらに、



「加害者側がのうのうと生きてるなんて納得出来ねぇし、例え今回のことでアイツが苦しもうと、そんなの俺らが悪いわけじゃねぇんだから。」


マサキはお父さんを憎んでいると話していたけれど。


でも、レンにそれを言ったところでどうなるわけでもない。



「俺は死んでも氷室正輝を許さねぇよ。」


雨音に滲んだ、彼の決意。


それはまるで、洗い流しても決して消えない過去のようだ。

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