潮騒
美雪がうちまでタクシーで送ってくれ、あたしはヘロヘロのままに帰宅した。


エントランスを抜け、エレベーターを降りる。


けれど、玄関のドアに身を預けて佇む人影を発見した時、足が止まった。



「ルカ。」


彼があたしの名前を呼ぶ。


鼓動は速くなり、涙腺が緩みそうになる中で、



「…マサ、キ…」


どうしてマサキがここにいるのだろう。


今更あたし達が会ったところで現実が変わるわけではないというのに、それでもキーケースを持つ手が震えていた。



「ずっとどうしようかって考えてたんだけど。」


「………」


「もう来るべきじゃねぇとは思ったけどさ、やっぱお前とちゃんと話したくて。」


レンにバレたらまた怒られるかもしれない。


いや、それどころかあたしは彼を裏切ることになりはしないだろうか。


けど、でも、散々迷った果てに、



「入って。」


あたしはマサキを部屋へと招き入れた。


馬鹿なことをしているのはわかってるし、話したところでどうにかなるようなことではない。


それでも、この一ヶ月間、あたしの頭の中を占めていたのは彼だから。


マサキはソファーへと腰を降ろし、皮肉混じりの顔で、



「もう顔も見たくねぇって言われんのかと思ったけど。」

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