潮騒
そう言って煙草を咥えた。


あたしはその場に佇むことしか出来ず、流れる沈黙はひどく重いものだ。



「俺の親父が犯した罪は、紛れもない真実だから。」


「………」


「だから俺は、お前に何を言われたってしょうがねぇって思ってるよ。」


心が握り潰されたように痛い。


あたしは顔を俯かせ、唇を噛み締めた。



「あたしずっと、マサキが悪いことしたわけじゃないのに、って思ってた。」


「………」


「けど、レンをこれ以上悲しませるようなことだけは出来なかったから。」


言い訳染みていると、自分でも思う。


言った後で、堪え切れなくなった涙の一筋が頬を伝った。



「…どうしてあたし達が、こんなっ…」


瞬間、ふわりと包まれた体。



「ごめんな、ルカ。」


振り絞るように呟いたマサキを、あたしは振りほどけなかった。


忘れかけていた香りが鮮明になり、今まで過ごしてきた日々が蘇る。



「ルカ、ごめん。」


でも、と言葉を切った彼は、



「でもどうしても俺は、お前のこと忘れられなくて。」

< 211 / 409 >

この作品をシェア

pagetop