潮騒
お兄ちゃんのことを恋しく思うのは、今も変わらない。


けれど、マサキを恨もうとは思わない。



「もう良いの、全部過ぎたことだから。」


あたしの言葉に彼は、やっぱり悔しそうに唇を噛み締めていた。


音のひとつもない世界。


ひどく静かで穏やか過ぎるこの空間の中で、あたし達は身を寄せ合う。



「過去のことより、未来の方が大事だよ。」


「…未来、か。」


そう、未来。


変わらないことを憂うよりも、これからを築いていかなければ繰り返すだけだから。



「なぁ、俺ちゃんとお前の兄貴の墓前に手合わせたいんだ。」


「うん。」


「例え何の意味もなかったとしても、向き合うってそういうことだと思うから。」


「うん、そうだね。」


愛しているとは、まだ言えなかった。


携帯はマナー音を鳴らし、振動し続ける。




【美雪から聞いたけど、大丈夫か?】




レンからの受信メールに返信はせず、あたしは静かにそれを閉じた。


次第に白み始めた空の色は、朝焼けに滲む。


マサキはあたしを引き寄せながら、頬に小さく口付けを添えてくれた。


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