潮騒
それは次の日曜日のこと、あたしとマサキはお兄ちゃんのお墓に来ていた。


よく晴れ渡った今日は、月命日。


春の陽気が木々をざわめかせ、心地の良い風が吹き抜ける。



「あたしが体を売ってるのは、お兄ちゃんが死んだこととは関係ないよ。」


「………」


「きっとお兄ちゃんが生きてたって、あたしはお母さんに頼まれればどんなことをしてでもお金を用意してたと思うから。」


墓石に刻まれている名字は、今のあたしのものとは違っていた。



「今にして思えば、お父さんが不倫してたのだって、家族の間に入った亀裂から目を背けて、見ないようにしてただけなんだろうし。」


あたし達家族は、所詮は脆い絆だっただけ。


その何もかもを、あの事故の所為にしていただけなのだ。



「だからマサキはそんな顔しないでよ。」


なのに、立ち上がり、振り向いた彼はひどく悲しそうだった。


風が、ふたりの間で舞い上がる。



「お父さんには?」


「ずっと会ってないよ。
向こうも今は幸せに暮らしてるみたいだから。」


そっか、とマサキは呟くだけだった。


腕時計の針は、ちょうど真上で重なる時刻を指し示している。



「そろそろ帰ろうよ。」


と、言い、きびすを返そうとしたその瞬間、背後で足音が響く。


振り返った場所にいたは、



「…レ、ン…」

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