潮騒
飄々としながら、チェンさんは軽やかにそう言った。


何だか、本当に悩んでいるのかすら疑わしいといった感じだけれど。


チェンさんが想いを抱くスミレさんは、石橋組の情婦、か。



「俺ね、今、金貯めてんだけど。」


随分と似合わないことを言った彼は、さらに、



「そのうちスミレさんと逃げようかなぁ、なんて考えてんの。」


驚きすぎて、あたしは噎せた。


あの彼女と一緒にこの街を出る、ということだろうか。


ごほごほと呼吸を整えながらも、頭の中で反復させたみた台詞に目が白黒としてしまう。



「あ、まちゃまちゃには内緒にしといてよー?」


「内緒とか、そういう問題じゃないでしょ。」


「でもまだ何ひとつちゃんと決めてないのに、言ったって逆に心配させるだけじゃん。」


じゃあ聞かされたあたしはどうなるんだ、という突っ込みは置いといて。



「それ本気なんですか?」


「さぁ、どうだろ。」


はぐらかすのはお得意らしい。


あたしはため息混じりに肩をすくめた。



「もう良いですよ。」


諦めて言ったのに、



「だってマサキより大事な人って、俺にとっては初めてだから。」

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