潮騒
生きていく中で、見つけたもの。


人はそうやって、昨日を過去に変えていく。


ふとあたしの脳裏をよぎったのは、レンの顔だった。



「…大事な、人。」


反すうさせたあたしに彼は、



「だからもしも俺がいなくなっても、マサキのことよろしくね、って先に言っとこうと思ってさ。」


「………」


「まぁ、どうするかなんてまだわかんないけど。」


別れになるかもしれない台詞にしては、相変わらず軽い。


だからどうしても、それを本気だとは捉え難いけれど。



「そしたら寂しい?」


「ちょっと寂しいですけど、この街で一生を終える人なんていないですしね。」


「………」


「幸せを見つけてここを離れるのなら、それは喜ばしいことですよ。」


そう、それは悲しい別れなんかじゃない。


顔を上げて巣立つというなら、こちら側の人間は笑顔で見送らなければならないのだ。



「でも、チェンさんのことだからどうせ、あんなの嘘でしたー、とかになりそうですけどね。」


ふふふ、と彼は笑う。


オッドアイの瞳は、やっぱり不思議な色をくゆらせていた。


そこに何を映しているのかなんて、知らなかったの。

< 224 / 409 >

この作品をシェア

pagetop