潮騒
チェンさんがきっちりと食事を終えたのは、店に入って一時間以上が経過してからだった。


彼はナプキンで口元を拭いながら、



「まぁ、そういうわけだしさ、ルカちゃんはマサキと仲良くね。」


「………」


「アイツはちょっと情に脆いところがあるから、何か色々と心配だし。」


心配ばかりさせる男が何を言うのやら。


けれどあたしは、睡魔も手伝いもう話半分だ。



「人の心配より、まず自分のこと考えてくださいよ。」


「ははっ、それもそうだ。」


「笑い事じゃないですよ、ったく。」


肩をすくめるあたしと、相変わらず笑ってばかりの彼。


チェンさんはそこでふと真面目な顔に戻り、



「ルカちゃんこそ、たまには自分の心配もしなきゃだよ。」


「…え?」


「無防備に人を信用するのは危険、ってことかな。」


意味深な言葉を残し、伝票を持った彼は立ち上がった。


無防備に人を信用するのは、危険?


そんなのわかりきってるし、どういうつもりで言っているのだろう。


けれど声を掛けようとするより先に、チェンさんは店を出た。


あたしはその背を見つめながら、ひとり首を傾けることしか出来なかった。


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