潮騒
腐りきったこの街は、まるで夜が明けることを拒むように、今も煌々とネオンの色に染められている。


笑顔の濁った人々を見つめた。


彼らはその瞳を曇らせながら、何を得るためにここで生きるのか。


手にした金の分だけ、何かを失っている気がするの。


剥がれ落ちたものさえ拾う余裕もなく、またたく間に移り変わる景色に飲み込まれてしまうだから。


夜空に向かって吐き出したため息さえも、世界に滲む。


あたしは虚しさに肩をすくめながらも、タクシーを止めた。


帰宅する頃にはもう、薄っすらと空も白み始めていた。



「お疲れみたいですね。」


運転手はルームミラー越しにこちらを一瞥し、



「長年こうこう仕事をしてるとね、お客さんの顔見ただけで大体のことがわかるもんなんですよ。」


「………」


「この街には悪魔みたいなのが眠ってるんで、それに喰われてしまわないようにしてくださいね。」








それから家に帰り、シャワーを浴び終えた時、部屋に鳴り響いたチャイムの音。


こんな非常識な時間にうちに来る人間なんて、限られている。



「やっぱりね。」


ドアを開けると、マサキの姿。


起きてるとは思わなかった、と言って笑う彼を招き入れた。

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