潮騒
「ルカ、着いたぞ。」


揺すり起こされて目を開けた時、すでにあれから2時間ほどが経過していた。


窓の外は薄っすらと白み始めている。



「ここ、どこ?」


「世界が見渡せる場所だ。」


マサキに促されて車外へ降りると、街を一望する景色。


薄暗くも紫の色に滲んだ空に染められながら、眼下には、きらきらと灯された明かりと、海の漆黒。


あたしは目を見開いた。



「すごいね。」


何かを見て、綺麗だなんて思ったのは、一体いつ振りだったろう。


ネオンも、宝石でさえも、心動かされることはなかったのに。


なのに地平線の彼方まで続くこの景色に、呼吸をすることさえ忘れてしまいそうになる。



「絶対気に入ると思ったよ。」


マサキがそう言った時、冷たくも強い風が吹き上がった。


いくら上着を着ているといっても、思わず身を縮めてしまうと、彼は車の後部座席からジャケットを取り出し、あたしに羽織らせてくれた。


僅かに香る、マサキの香り。



「俺の所為で風邪引いたとか言われても困るしなぁ。」


なんて言いながらも、それが優しさだということはわかる。


小さく笑ってしまうと、今度は後ろから抱き締められて驚いた。


うるさいくらいに速くなった鼓動。



「何で固まってんだよ。」

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