潮騒
レンが愛していたのは、宮城くんの妹?


それってつまり、



「美雪は、俺の起こした事件の被害者家族なんだ。」


正当防衛が認められたとはいえ、レンが殴り、その衝撃で壁に頭をぶつけ、今も眠っている被害者の男の子。


その妹が美雪だということか。


現実に目眩がした。


けれど、記憶の糸を辿ってみれば、思い当たる節はいくつもあったのだ。


金を稼がなければならない、毎日を精一杯で生きなきゃならない、と繰り返していた彼女には、兄がいると言っていたけれど。


そんな、まさか、信じられない。



「だから俺、それ知ってパニックになって。」


自嘲気味に言いながら、レンは自らの左手首へと視線を落とした。



「なぁ、ルカが手首切った時、俺も同じようにしただろ?」


「………」


「あれはお前の気持ちを軽くしてやるの半分、本当はマジで死ねるかもって気持ち半分だったんだ。」


「…何、言って…」


「俺は別にルカが言うように、いつも逃げずに立ち向かってるわけじゃないし、実際は恐怖心にがんじがらめにされてただけで、そんな格好良いもんじゃなかったんだよ。」


強い人間なんているわけがなかった。


あたしが頼ってばかりだったからこそ、レンを余計にそんな風にさせてしまったのかもしれない。


あたしは悔しさに唇を噛み締めた。

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