潮騒
“清廉潔白な人”という名を持つ、レン。



「ねぇ、美雪はこのこと知ってるの?」


「知ってたら、俺と一緒にいるわけないだろ。」


「本当のこと言わないつもり?」


「………」


「でも、じゃあ今日のことなんて説明するのよ!」


真実は、時に隠しておいた方が良い場合だってあるけれど。


でも、こんなことになっては、もうレンと美雪が関係を続けていくのなんて無理だろう。



「とにかく俺からちゃんと話すから、美雪のこと呼んできて。」


あたしは少しためらったけれど、でも意を決してきびすを返した。


ドアを開けると、長椅子に腰を下ろしている彼女の姿。


美雪はこちらに気付いて顔を上げた。



「レンが、話したいことがあるからって。」


「…え?」


「中、入って。」


沈痛な面持ちのあたしを察したのか、彼女は一瞬戸惑い、でも立ち上がった。


病室へと入り、美雪はレンの前で立ち止まる。



「どうしてこういうことしたのか、ちゃんと説明してよ。」


彼女は唇を噛み締めるが、レンは言い出せないままだ。


少しの沈黙が訪れてから、



「じゃあ、ひとつだけ答えて。」


美雪は震えた声と共に顔を上げた。



「もしかしてレンは、あたしの正体に気付いちゃった?」

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