潮騒
驚いたのはあたし達だった。


正体ってまさか、美雪はすべてを知っていたの?


レンが自らの兄をあんな風にしてしまったと知っていて、それでも一緒にいたというのだろうか。



「ずっと隠しておくつもりだったのにな。」


彼女は自嘲気味にふっと息を吐き、



「最初はとにかく家族を助けたくて夜の世界に入ったんです。」


「………」


「だけど、そこで有名だと教えられたクール・ジョーカーのレンは、あの真下廉人だった。
お兄ちゃんをあんな目に遭わせたのに正当防衛で晴れて無罪放免になった男が、のうのうとホストなんかしてみんなからチヤホヤされてるんですもん。」


復讐してやろうと思いましたよ。


彼女はそう付け加え、今度はあたしを見る。



「ルカさんとはただならぬ仲だって噂を聞いて、あたしファンタジーに入店したんです。
正攻法でレンのお客になるより、外堀から固めようと思って。」


「………」


「ルカさんと仲良くなれたら、今度はレンの方から近付いてくるんだから。」


じゃあ、すべては美雪の計画だったということか。


目を見開いたあたしに、けれども彼女は、



「なのに、人の気持ちって厄介ですよね。
何ひとつ思う通りにならないし、ミイラ取りがミイラになっちゃった気分です。」


「……え?」

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