潮騒
「レンの身内であるルカさんだって同罪だと思ってたはずなのに、あたしいつの間にかそういう感情が薄れていって。」


「………」


「それにレンのことだって知れば知るほど、想像してた男と全然違うんだもん。」


美雪はそう言って悲しそうに視線を落とした。



「レンは毎月お兄ちゃんの入院費を稼ぐためにマクラやってるし、のうのうと生きてるわけじゃない。
今も一瞬たりとも記憶から消すことなく、あの日のことに罪の意識を感じてるんだって気付いたから。」


「………」


「何よりレンは、嘘で固めたあたしを本気で愛してくれた。」


声を震わせた彼女の頬に、涙の一筋が伝った。


レンは今も顔を覆ったままだ。



「だからこのまま知られないままなら、ずっと楽しくいられると思った。」


「………」


「お兄ちゃんのことは忘れたわけじゃないけど、でも復讐なんて馬鹿げてるって思ったから。」


その気持ちを、誰が否定なんて出来るだろうか。


美雪の苦しみは、あたし自身、痛いほどにわかる。


いくら過去を積み重ねたって、生きている今には勝てやしない。



「あたし、本当のことを言ってレンを傷つけるのが怖かったの。」


「………」


「深みにはまる前に姿を消すことさえ出来なくなってしまったくらい、レンのことを好きになってしまったから。」

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