潮騒
ゆっくりと顔を上げたレンの瞳には、薄っすらと涙の雫が溜まっていた。


それが一筋、溢れるように零れ伝う。


彼が初めて見せた泣き顔だった。



「…ごめん、俺っ…」


「謝るのはあたしの方だよ。」


遮るように言った美雪は、



「あたし本当はあの頃、日増しに荒れていくお兄ちゃんなんて好きじゃなかった。
すぐに暴れて家中めちゃくちゃにして、しょっちゅう警察沙汰になってお母さんを泣かせて。」


「………」


「なのにあんな事件が起きて、今度は寝たきりになったお兄ちゃんに付き添うために家族中が団結してるの見て、何だか悔しかったの。」


「………」


「だからレンに対する復讐心は、あたしの醜い嫉妬心から生まれたものなの。
本当は、誰かを悪者にして恨むことで満足したかっただけで、客観的に見ればレンの正当防衛が適正なものだってちゃんとわかってたよ。」


だから騙しててごめんなさい。


彼女は気丈にも、レンの目を見てはっきりと言った。



「あなたの気持ちをもてあそぶような真似をして、こんなことになったのはあたしの所為だね。」


「違うだろ!」


「違わないよ。
レンを追い詰めたのはあたしの存在の所為だもの。」


ただ悲しかった。


あたしとマサキを見ているようで、そして何よりふたりの気持ちが痛すぎたから。



「ごめんね、レン。」

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