潮騒
図らずも、耳まで真っ赤になってしまったあたしは、多分馬鹿だ。


と、いうか、彼はどういうつもりでこんなことをするのか。


あたしなんて所詮はただのマクラ嬢なのに。



「やめてよ。」


「どうして?」


「こういうことされたって困るし、それにあたしのこと普通だって、この前言ってたじゃない。」


それは唯一出来た抵抗なのかもしれないけれど。


でも彼は、あぁ、と思い出したように笑い、



「あのファンタジーで一年もナンバーワン張ってる女のことなんて、みんな面白おかしく騒ぎ立てて、色んな情報が入ってくるけどさ、でもお前は普通の女だよ。」


「………」


「他のやつらと変わりねぇし、特別なことなんて何もねぇじゃん。」


こんなことを言われたことなんてなかった。


だから気を抜けば涙腺が緩みそうになって、あたしはそれを堪えるようにぐっと唇を噛み締める。



「俺はお前のこと可愛いと思うけどね。」


聞きたくはないと首を振ったのに、



「何で泣くかな。」


震えているのは寒さだけの所為ではなかった。


頬を伝うものが風に冷やされ、触れてみれば、それが涙だと気付いてしまう。


どうしてあたしは泣いているのだろう。


こんな男の言葉にほだされて、ぬくもりに安堵させられている自分がいるなんて。

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