潮騒
あの日から2週間後、レンと美雪は揃って我が家へとやってきた。


レンの手首の包帯は消えたけれど、でもまだ痛々しい傷が残ったままだ。


けれどそれは、何故だか彼の決意の証のようにも見えた。



「まだこれからのことを具体的に決めたわけじゃないんだけどさ、でもひとつひとつ片付けていこうと思って。」


そう言ったレンの顔は晴れ晴れとしたものだった。



「俺、今月で店辞めることにしたんだ。」


「…え?」


「夜から抜けて、ちゃんと昼の仕事して稼ごうと思ってる。」


やっぱり償いは汚い金でするべきじゃない、マクラするくらいなら寝ずに仕事を掛け持ちする方を選ぶよ。


なんて言う彼は、実家に戻ることを決めたらしい。


ふたりの手の平はしっかりと繋がれていた。



「そんで生活が落ち着いたら、美雪とのことも考えようと思って。」


今度は彼女の方が横から口を挟んだ。



「あたしも今月で退店するって、昨日オーナーに話しました。」


「美雪まで辞めんの?!」


「はい。
レンと話して、そう決めたんです。」


当分は知り合いが営むスナックでバイトをしながら、将来のことを改めて考える予定なのだと言う。


確かに稼げるとはいえ、彼女はノルマだらけのファンタジーで神経を尖らせて働くべきではないのだ。


少し寂しくなるけれど、でもふたりが選んだ道ならば異存はない。

< 241 / 409 >

この作品をシェア

pagetop