潮騒
それは、3人で初めて心の底から笑えた瞬間だったのかもしれない。


わだかまりなんてものはない。


未来を向いて進むのならば、どんな決断さえも、しないよりはずっと良いから。


これから何が待ち受けているのかなんてわからないけれど、でも束の間の笑顔だった。


レンと美雪はこれからどういう関係を育むのだろう。


そんなことに思いを馳せながら、あたしはビールを流し込んだ。


そして日付が変わる頃になると、あたし達ほど飲めない美雪は先に我が家のベッドを占拠してしまう。



「悪ぃけどアイツのこと泊めてやってくんない?」


「ったく、しょうがないなぁ。」


レンの苦笑いも見慣れたものだが、やっぱりその瞳に映る彼女への想いが滲んでいる。


本当はこんなにも優しい顔をする男だということを、あたしはもう随分と忘れてしまっていたのかもしれない。



「それよりさ、正直な話、これから本気でどうすんのよ。」


「さっき話した通りだって。」


「マジで実家に戻って昼職すんの?」


「じゃなきゃ、美雪と向き合う資格ねぇじゃん。」


「………」


「例え俺がマクラしてた過去は消えなくても、今はふたりでこれからのことだけ考えてたいからさ。」


付き合うとか付き合わないとか、抱くとか抱かないとかいう問題じゃない。


レンと美雪は、何もかもを乗り越えた時、本当の意味で結ばれるのかもしれないね。


それは純愛にも似て見えた。

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