潮騒
何もかもが滞りなく準備される中で、あたしはただ茫然として動けずにいた。


叔父さんは休んでいれば良いから、と言ってくれる。


多分、レンがずっと横についていてくれたのだろうし、あたしはひとりじゃなかったのだと思う。


けど、でも、喪失感に飲み込まれる。



「通夜と告別式は今晩で、葬儀は明日の日程だって。」


「………」


「そんで弁当置いてあるから食えってさ。」


「………」


「俺も一応は身内って形で参列させてもらえるように話といたから、心配すんな。」


後悔と、罪悪感と、悔しさと。


次々と胸の内に湧き上がるそれらの感情の中で、あたしは水道の蛇口が緩んだように、ぼたり、ぼたり、と涙を零していた。


もちろん意識なんてものはない。


ただ、こんな風にして、二度と会えない道へと分かたれた、現実。


お母さんは今、お兄ちゃんがいる場所で、幸せだと思えているのだろうか。


そこはあたしのいない場所――。



「なぁ、ルカが悪いわけじゃないし、病気だったのは仕方がないことだろ?」


「………」


「それにこう言っちゃ何だけど、これで晴れてお前はもう自由なんだ。
誰にも苦しめられることなんてなくなったし、金のためにマクラする必要もねぇ。」


じゃあもう、あたしには生きる意味がないじゃない。


お母さんに愛されることだけをただ願っていたあたしの、生きてる意味が。



「ルカが心を痛めて自分を責めることなんてないんだ。」

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