潮騒
「おばさんの元旦那さんだし、どうしようかと思ったけど、一応はってことで俺から連絡しといたんだけど。」


すまなそうに、レンは横から口を挟む。


が、それを気にも留めないお父さんはあたしに向け、場所を変えてちゃんと話したいと言い出した。



「いや、ルカは今は話せるような状態じゃないし、またにして…」


「別に良いよ。」


遮ったのはあたしだった。



「疲れたし、面倒だから手短にしてくれるならね。」


もう何だって良いとさえ思っていたし、ましてやいつ会ったところで同じことだ。


お父さんとの再会なんて夢にも思わなかったし、願っていたわけでもない。


だからひどく淡白なものだと自分でも思う。


一緒についてくると言ったレンに断りを入れ、あたしはお父さんの後に続いた。


葬儀場からすぐ傍にあるカフェで向かう合う、喪服姿のふたり。



「それより話って何なの、お父さん。」


お父さん、と呼ぶことには少し抵抗があった。


いくらお母さんが死んだからとはいえ、あんな別れ方をしておいてよく葬儀に来れたものだなと思う。


あたしの態度にお父さんは顔を曇らせながらも、



「本当はずっとルカのことが気になっていたし、お父さんだって父親だ。」


「………」


「けど、連絡すべきじゃないと思ってた。
そしたらこんな風になってしまったなんて、皮肉なものだな。」


煙草を咥えた彼の左手の薬指にある指輪が、きらりと光る。


せめてそれを外してからあたしの前に現れるという優しさはないらしい。

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