潮騒
あたしの叫んだ声が、陽の傾いたオレンジに染まる店内に響き渡った。


それでも悔しさばかりが込み上げてくる。



「あたしが一番辛かった時に、アンタは何をしてくれたの?!」


「…ちょっ、ルカ…」


「一度だってお兄ちゃんの命日に現れなかったアンタが、今更あたしに向かって家族に戻ろうとかよく言えたもんだね!」


瞬間に、彼は顔を俯かせた。



「お父さん、ユズルのことだって忘れたりなんかしたことなかったよ。」


「じゃあ、覚えてればそれで良いとか思ってんの?」


「………」


「忘れたりなんかしなきゃ、不倫した末に離婚して、あたし達を捨てたって許されるの?!」


こんな風に言うつもりなんてなかったはずなのに、なのに言葉は勝手に口をついていた。


嘘でも謝罪のひとつさえないのだから。


作った拳は震えていた。



「悪いけど、この先、例え何があったとしてもあたしとお父さんが一緒に暮らすことなんてありえないから。」


「ルカ!」


指輪を嵌めた左手で制止された。


が、あたしはそれを振り払い、お金を叩きつけて店を出る。


西日に染まる街で、ひとりぼっちの現実が嫌に身に沁みた。

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