潮騒
てっきり張り手のひとつでも飛んでくるものだと思っていた。


いや、その方がいっそ清々しいとさえ思っていたはずなのに、なのにカオルちゃんはあたしの言葉に目を見開いたまま、



「…不倫、女？」


知らなかったのだろうか。


自分の父と母の馴れ初めや、こんな歪んだ関係さえも。



「ルカ、言い過ぎだ！」


けれど、レンの仲裁は遅すぎるものだった。



「どういうこと？！
お父さんとお母さん、そんな話なんてしたことなかった！」


世間を知らないというのは、不憫なものだ。


この子の所為ではないとわかっていても、あたしはフォローする気にはなれなかった。


それはきっと、醜い嫉妬心。



「アンタがあたしのこと嫌ってる以上に、あたしはアンタが嫌いなの。」


「………」


「まぁ、せいぜい家族仲良く過ごしなさい。」


ぐっと唇を噛み締めたカオルちゃん。


その瞳には、悔しさからか薄っすらと涙が溜まっていた。



「あたしは自分で帰れるから、レンはその子のこと送ってあげなよね。」


吐き捨てるように言って、あたしはきびすを返した。


関係を改善出来ないままに別れたお母さん、そして身勝手なお父さんと、腹違いの妹。


どうしてあたしばかりが責められなくちゃならないのか。

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