潮騒
行為の終わり、肘置きに頭を預けてうな垂れるあたしは、まるで飼い猫のように彼の手の平に撫でられる。


それがひどく心地よく感じてしまうだなんて。



「ねぇ、あたしのことも調べたの?」


「興味ねぇよ、そんなもん。」


煙草の煙を吐き出しながら、彼は言う。



「俺は依頼されねぇと動かねぇし、第一そんなんじゃつまんねぇだろ。」


「………」


「何より、お前の人となりがどうだとかに興味はねぇし、じゃなきゃ仕事でもねぇのにわざわざ店が終わる頃に迎えに行って、こんなとこまで来ねぇから。」


知られたくなかったのかもしれない。


誰にも愛されず、いつもお母さんの目に怯えるばかりしながら生きてきた、自らの過去なんて。


マクラのことなんて、これ以上は知られたくなかったのに。



「それとも、知られちゃマズイ何かでもあるのか?」


思わず言葉に詰まってしまった。


するとマサキは小さく笑い、



「まぁ、隠しときたいことなんて、人間ひとつやふたつあるのが普通だしな。」


彼にもそんなものがあるのだろうか。


と、思ったけど、聞こうとは思わない。


煙草を取り出し、火をつけ煙を深く吸い込むと、窓の外に映る色が徐々に変わりゆく。


夜明けの訪れだ。

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