潮騒

醜い執着心

あれ以来、マサキはそのほとんどの時間をあたしの部屋で過ごすようになり、もう一緒に暮らしているような感じだった。


出歩くことさえ拒みがちなあたしに彼は、何か作って、と言ってくる。


だから買い物には行かなければならないし、当然、ご飯を作れば食べないと怒られる。


辛うじて日々を繰り返しているといったところだろうか。


とにかく何の気力も生まれなかった。


次第に仕事は休みがちになり、今じゃまともに出勤することすらも苦痛になっていた。


すると見事にナンバーから転げ落ち、当然のように客も離れた。


確かにもうマクラをする必要はなく、だから以前のように、無理をしてまであんな場で笑顔を作れなくなっていたのだ。


美雪さえいなくなった店にはもう居場所もなく、それどころか地位を失ったあたしは嘲笑のネタにされている。


マサキは、辞めろとも続けろとも言わない。


だからきっとあたしはまたそれに甘えているのだろうと思う。


あれから彼は、何度かあたしをドライブだと言って連れ出してくれ、旅行に行ったり、ガラじゃないような遊園地にまでも。


確かにその場では楽しかった。


けれど、帰宅するとまた、余計なことを考えてしまう。


壊れていたのだと思う。


心も、体も、何かに蝕まれてしまったみたいに、ひどく空虚なものだった。


季節はいつの間にか、雨に染まる日々へと変わっていた。

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