潮騒
「それは残念だ。」


と、言った彼は、笑いを押し殺すような顔で、



「じゃあまぁ、寂しくなるけど頑張ってね。」


やっぱりそこには、ちっとも心なんてこもっちゃいなかった。


パタリ、と静かに閉まる扉。


レンも美雪も、自分の意思で、自分の道を選んで進んだ。


なのに、あたしはどうだろう。


お母さんが死んで、縛るものさえなくなったというのに、まだ何ひとつ決められない。


辞めることほど簡単で、楽になれることなんてないはずなのに、なのにあたしは一体何に執着しているのか。


人々の羨望も、ナンバーワンという地位も、稼いだ金も。


すべては過去の栄光になり下がった。


自分のようにはならないでくれ、と北浜社長は言っていたけれど。


今ではそれすら遺言になってしまったね。



「…もう終わり、か。」


呟く言葉すらも虚しく消える。


一年以上も過ごしたのに、この場所には何も残らない。


自嘲気味に笑いながらうずくまると、部屋の外から聞こえる他のキャストの笑い声。


あたしは堪らず耳を塞いだ。

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