潮騒
うちのマンションの向かいには公園があり、昼間はそこにたくさんの子供たちが集まってくる。


ベランダからその光景を眺めながら、あたしの一日の大半は過ぎていく。


空が青くて、こんなにも時間が穏やかに流れるなんて知らなかった。


ネオンの色とは大違い。


今日も煙草を吸いながら外を眺めていると、ピンポーン、と鳴り響いたチャイムの音。


玄関を開けるとそこには、またやってきたレンの姿。



「ほら、お前の好きなあの店の焼き菓子だ。」


手土産がビールじゃなくなったのは、いつからだったか。


小さく笑うと、彼は勝手知ったるように中へと入る。



「今日はいないんだな、アイツ。」


「マサキは最近忙しいらしいし、何か取り込んでるからって毎日遅いしね。」


「へぇ、それはそれは。」


レンはもう、あたしとマサキの関係に口を出すことはない。


きっと許したわけではないのだろうが、でも思うところもあったに違いない。


否定されるようなことはなくなった。



「それよりさ、お前の親父さんから伝言。
どうしてももう一度ちゃんと話したいから時間作ってくれ、ってさ。」


そう言って肩をすくめたレンは、



「ホントしつこいよなぁ。」


「これ以上は話すことなんかないって、何度も言ってるのにね。」

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