潮騒
夜になり、眠っていると、ゴトッ、という物音で目が覚めた。


体を起こすと、マサキの姿。



「あぁ、悪ぃ。」


明け方の4時だ。


またこんな時間に帰宅したのかと思うと、それはそれで不安になる。



「どうしようかと思ったけど、うちに帰る気分じゃなかったしな。」


「忙しいなら無理しない方が良いよ。」


「いや、でもちょっとトラブってるからさ。」


疲弊した顔で、彼は力なく笑った。


何があったのかは知らないけれど、でもこういう顔をすることが増えたと思う。


なのにマサキは、



「今回の件が落ち着いたら、またどっかゆっくり出来るところ行こうぜ。」


きっと、悟らせまいとしているのだと思う。


それがわかっていたからこそ、あたしは頷くだけにしておいた。



「じゃあ次は、海の近くが良いね。」


行楽地のパンフレットなら、各地方のものがたんまりとある。


いつか、それをすべて制覇しようとふたりで話していた。


小さくて儚い、けれど未来を紡ぐ夢。


少なくともマサキは、そうでもしなきゃ、抱えているものの重みに耐えられなかったんじゃないのかと、今では思う。


歯車があんな方向に回るなんてこと――。

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