潮騒
まるで彼までも、離別を臭わすことを言う。


そういえばチェンさんは、スミレさんとこの街を出るつもりなのだと言っていたっけ。


あれはどうなったのだろう。



「何だか今日のチェンさん、いつもと違って見えますね。」


「そうかな?」


「そうですよ。」


珍しく黒づくめの格好だった。


だからなのか、チェンさんの金色に輝くオッドアイがよく映える。


口調もどこか落ち着き払っている印象だった。



「まぁ、今日は特別な夜になる予定だからね。」


特別な夜?


あたしが首をかしげると、構わず彼は、



「あ、これ買っといたから飲みなよ。」


パックジュースのイチゴオレ。


これを選ぶところはやはりチェンさんらしいと笑ってしまう。


受け取ってからストローを差し、一口含むと、甘すぎる味に驚かされた。



「普通は無難にコーヒーかお茶じゃないですか?」


「いや、無難に女の子の好きそうなものを選んだつもりなんだけど。」


なんて、肩をすくめた彼は、



「だってそれが俺に出来る、せめてもの優しさだから。」

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