潮騒
重くなったまぶたを開けた時、そこに映ったのは荒れ果てた廃工場だった。


鼻を差す砂埃の臭い。


体を動かそうとしたが、手首が縛られていた。



「何だ、もう少し寝ててもらう予定だったのに。」


椅子に座る彼は、トカレフをいじりながら笑っていた。



「モーニングコーヒーとブランチ、用意してなくてごめんね。」


人を連れ去って睡眠薬を飲ませ、おまけに拘束までしておいてよく言えたものだ。


チェンさんは相変わらず張り付けたような笑顔だった。



「ここはね、昔、俺とマサキが所属してたエンペラーってチームの溜まり場のひとつだったんだ。」


「………」


「タカさんとか、堀内組の久保さんとかと、よくここで悪い相談してたっけ。」


そんな思い出話に付き合ってはいられない。


とにかくどうにかして逃げなければとは思うものの、腕が縛られている上にトカレフを持った彼に監視されている。


あたしは唇を噛み締めた。



「一体何を企んでるんですか?」


「………」


「あたしにこんなことまでして、どういうつもりなんですか?」


するとチェンさんはくすりと笑い、



「だってマサキが悪いんだもん、しょうがないじゃん。」

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