潮騒
彼がそう言った時だった。


バンッ、とドアが開き、そこに見えた人の影。


アタッシュケースを片手に持つ、マサキの足音が響く。



「約束より30分も前に来ちゃうなんて、さすがはまちゃまちゃ。」


ご満悦な様子で立ち上がったチェンさんは、あたしの方へと銃口を向ける。



「ルカちゃんには何もしてないでしょ。
なのにそんな怖い顔は嫌だなぁ。」


「うるせぇよ、ふざけんな!」


「ふざけてないよ、俺はいつだって本気だもん。」


マサキは舌打ち混じりにこちらを一瞥する。


チェンさんに対し、まるで殺意でも沸いているような瞳で。



「マサキに大切なものがあるように、俺にだって大切なものがあるんだ。」


「………」


「なのにマサキは、いつもスミレさんを悪く言うよね。
何も知らないくせに、俺を心配してるフリして声高にさぁ。」


そして苦虫を噛み潰したような顔で、彼は、



「世の中の善悪なんて誰が決めるの?
そんなの所詮、強いものが法律になるってのに。」


「トカレフなんか手に入れて、それでてめぇが強いってか?」


「だって勝ち取るためには、武器と、最低限の流れる血は必要不可欠でしょ。」


「………」


「まぁ、そんな御託はどうでも良いけど。」


チェンさんは、ゆっくりと、銃口をマサキの方へと向けた。


今まで以上に冷たい瞳。

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