潮騒
「金はそこに置いて、3歩下がれ。」


「………」


「妙な動きをしたら、マサキじゃなくてルカちゃんを撃っちゃうからね。」


唇を噛み締め、マサキはその指示に従った。


チェンさんはふっと笑ってからアタッシュケースを取り、



「あと、餞別代わりにトカレフも貰っとくよ。」


じゃあ、元気でね。


その言葉を残し、彼は走り去る。


チェンさんの姿が見えなくなったのを確認したところで、マサキは「クソッ!」と漏らした。


そして彼は息を吐く。



「怪我してねぇか?」


「…え、あぁ、うん。」


手首の紐がほどかれ、体の力を抜くと改めて、事の重大さを思い知る。


彼はマサキを裏切った。



「まさかマジでアイツがこんなことするなんて思いもしなかったよ。」


「………」


「けど、許せた話じゃねぇ。」


ガッ、と壁を殴った彼は、



「この落とし前は、必ずつけさせねぇと。」


怖かった。


でもどうしてだか、悲しかった。



「ねぇ、何でこんなことになってしまったの?」

< 277 / 409 >

この作品をシェア

pagetop