潮騒
“情報屋は、情報を売ることだけに徹する”――それが唯一ふたりで誓った取り決め。


なのにチェンさんは欲をかいた。


得た情報を元に、人を揺すり、さらに金を絞り取ろうと裏で画策していたらしい。



「一歩間違えればパクられるどころか、誰に命狙われるとも限らねぇのに。」


けれど、それはすべてスミレさんのため。


彼女を解放するために、チェンさんは危険な橋を渡ってでも、金のために動いていた。


マサキが気付くのに時間は掛からなかったそうだ。



「アイツは俺の忠告を無視して、さらにはまだ金が足りねぇとか言い出して。」


「………」


「事務所に置いてた分まで奪いやがった。」


そして、この街から出るのだと言ったらしい。



「けど、スミレって女はチェンを利用してるだけだ。
金のために、本当は石橋組と結託してんだから。」


「…え?」


「まぁ、何度も言ってやってたのに、アイツはとうとう聞かなかったけどな。」


物別れに終わった。


それでもまだ、チェンさんは金が必要だった。



「そしたら今度はトカレフまで盗んで、ルカのこと人質にして金の要求だ。」


「………」


「こんなことして逃げたって、アイツは幸せになんかなれねぇよ。」


スミレさん――チェンさんにとって、マサキよりも大切に思う人。


とても悪い人には見えなかったし、一体誰の、何が正しいのだろう。


だた、金を持って逃げたチェンさんは、もういない。

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