潮騒
家に帰った。


マサキはその瞳に怒りを宿しながらも、憔悴している様子が見て取れる。


それもそうだろう、裏切ったのは数年来の親友だ。



「どうしてあたしのこと、助けたの?」


彼が用意したのが一体いくらなのかはわからないけれど、でもきっとドブに捨てられるような額じゃないはずなのだ。


なのにそれを渡して良かったのだろうか。



「お前が気にすることじゃねぇから。」


「………」


「何より、金を積めば命が助かるなら、これくらいは安いもんだ。」


あたしは顔を俯かせた。



「…ごめん。」


「いや、チェンがしたことだからさ、謝るのは俺の方だ。
何ともなかったとしても、本当に悪かったよ。」


金が人を狂わせる。


あたしもマサキも、いや、すべての人が、そんな世界で生きている。



「ねぇ、これからどうするの?」


問うたのに、答えは聞かれなかった。


彼は長く息を吐き出しながら、ゆっくりと顔を上げる。



「こうなった以上はもう金がどうこうじゃねぇし、アイツが不義理をかましたなら、俺も手段なんか選らばねぇ。」


「………」


「チェンも、あの女も、石橋組も、全部まとめて潰してやる。」

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