潮騒

冷たい雨と

あれからすぐに、あたしは正式にファンタジーを退店した。


マサキはまともに眠ることさえ出来なくなっているみたいで、毎晩のようにひどい量の酒を飲んでいた。


そして彼が吐き出したものには、時折血が混じることも。


正常ではいられない気持ちはわかる。


そこまで無理をしなければならない気持ちだってわかるけれど、でも見ている方が痛々しくなってくる。


チェンさんとスミレさんの足取りを調べながら、石橋組の動向をうかがいながら。


復讐というよりは、執着に近いのかもしれない。


彼はその心も体もすり減らしながら、日ごとに疲弊している様子だった。



「ねぇ、飲みすぎだよ。」


「………」


「飲むなとは言わないけど、せめてチューハイとかにしなよ。」


マサキはバンッ、とテーブルを叩く。



「じゃあ、どうすりゃ良いんだよ!」


それでもあたしは、もうやめなよ、とは言えなかったの。


自分自身でしかケリをつけられない問題だってあるのだから。



「でも、無理して体壊したら、旅行に行けなくなるじゃない。」


転がった缶から零れた液体が、猫の毛のようなカーペットにシミを作る。


マサキは悔しそうに顔を覆った。


チェンさんがいなくなってからの彼は、毎日がこんな風だった。

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